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 動機づけとは、人に目標を与え,目標追求の行動をおこさせる内的過程(行動の原因)のことである。動機づけには、要求と誘因という要素が関わってくる。要求は,人が何かを必要としている状態,誘因はその欲求を満足させる刺激対象である。

 たとえば,空腹という要求状態に対して食物が誘因となる。強い要求状態に置かれ,適切な誘因が提示されているとき,その人は動機づけられているという。 要求は

 ①個体の生命維持や種の保存にとって不可欠で、身体的基盤が明らかに生得的なもの(基本的要求)と、

 ②社会的な意味合いが強く、経験により習得されたもの(社会的要求)の2つのタイプに分類できる。

 動機づけには、外的報酬を得ることを目的とした「外発的動機づけ」と、心の中の満足感を得ることを目的とした「内発的動機づけ」とがある。たとえば、試験のために勉強するのは外発的動機づけである。一方、試験がなくても、誰にもほめられたり強制されたりしなくても、自分の知的好奇心で学んでいるのは、内発的動機づけである。

 内発的動機づけの概念は、伝統的な動因低減理論(人や動物の行動の究極の目的は、どのような要求も存在せず、どのような行動も必要のない安楽な状態を求めることにあるとする理論)に対するアンチテーゼとして提唱されたものである。

 デシ(Deci,E,L.,1972)は、外的報酬による内発的動機づけの低下を実証した。この効果は過正当化効果とよばれるが、彼はこの論をさらに発展させ、内発的動機づけとは、「自己の有能性」と「自己決定性」への要求に基づく動機だと理論化している。

 もちろん、外的報酬が内発的動機づけをいつも低下させるわけではない。外的報酬の「情報的側面」が強く認知されて有能感が上がると、内発的動機づけは高まる。

 一方、外的報酬の「制御的側面」が強く認知されて自己決定感が低下すれば、内発的動機づけも低下する。 さらに近年、自己の有能性、自己決定性に続く要因として、「対人交流性」(重要な他者からの受容感)も指摘されている。これらの考えによって、病理的なものも含め人間行動全般を説明しようとしている。

 また、内発的動機づけと外発的動機づけの中間的な動機や、自己の心理的圧力による内部制御的な状態など、新しい考えも示されている。 社会福祉援助行動等の向社会的行動にも、内発的動機づけの理論が適用できる。

 これは、「有償ボランティア」の問題などにも関わるものである。内発的動機づけ理論が重視する自己の有能性と自己決定性は、社会福祉の分野でも尊重される概念であり、福祉心理学的な研究や、臨床的な研究への可能性も示されている。

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