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「家族の構造と機能について述べなさい。」

 

 家族とは、一般に、婚姻と血縁を基礎とし、夫婦を中心に、その近親者らとともに営まれる生活共同体のことである。つまり、家族は婚姻と血縁という関係と、共同生活体という集団の二側面を持つことになる。

 家族の類概念として、世帯、家庭、イエがある。世帯とは、居住と生計を共にする一つの生活単位であり、家計という点が強調される。また、家庭とは家族を心理的な生活の場という側面からとらえたものであり、イエとは、男系による家名の超世代的な存続と発展を重要視する日本的伝統家族を制度的な側面からとらえたものである。

 家族を婚姻と血縁という関係から考察すると、そこには夫である父、妻である母、そして子供という三つの地位・役割が存在することになる。そしてこの家族の関係が他の社会関係に解消されないために、インセスト・タブー(近親相姦禁止規則)嫡出の原理(父親が子供を社会的に正当なものとして認知すること)という二つの原理が社会的文化的な次元に存在している。

 われわれ人間は父・母や兄弟といった家族の中で生まれ、家族の中で助けられたり教育を受けたりしながら育つ。このような子供の視点から見た家族は、定位家族と呼ばれる。定位家族は親子関係によって支えられている。一方、成長した子供はやがて誰かと結婚して子供を産むことを決定し、家族を形成していくことになる。このように結婚した男女から見た視点での家族は生殖家族と呼ばれる。生殖家族は夫婦関係によって支えられている。 家族はその分類の基準により様々な類型化が試みられてきた。

 GP・マードックは、一組の夫婦とその子供からなる単位が人類にとって普遍の社会集団であるとして、これを核家族とよんだ。この核家族が親子関係を中心にして縦方向に連結したものが拡大家族であり、配偶者の一方を中心として横に連結したものが複婚家族である。

 さらに、家族の形成過程を中心にパターン化すると、家族は夫婦家族制、直系家族制、複合家族制の3つの類型に分類することができる。

 夫婦家族制は、その家族に一生涯とどまるべき成員が夫と妻に限定されている家族制度である。家族は結婚によって成立し、死亡によって消滅する。子供は成長するにしたがって親元を去って自分の生殖家族をつくり、独立した生活単位を構成する。この家族類型は、労働力の地域移動、個人主義、平均寿命の長さ、夫婦の老後の生活も支えられる社会保障制度と所得水準などの条件に支えられている。イギリス、北欧諸国、アメリカなどではこの形態が一般的である。

 直系家族制は、夫婦とその後継ぎの夫婦によって構成される家族制度である。後継ぎ以外の生殖家族は、長期間同居することはない。一方、後継ぎは最終的にはその家族に復し、親の持つ財や地位が独占的に継承されことになる。これによって家族が直系的に再生産される。この家族制度では、親子の世代間扶養が容易となるが、個人の幸福追求は制限される。フランス、ドイツ、アイルランド、北イタリア、北スペインなどの農村、日本やフィリピンなどの農村に広く存在する。

 複合家族制は、夫婦と複数の既婚夫婦によって構成される。この制度は多人数の家族を現出しやすいが、父死亡の後、子供が生殖家族ごとに分裂する傾向がある。したがって家族の構成員も流動的であり、遺産も均分に相続される。平均寿命が短く、子供が一人前になる前に親が死亡する確率の高い社会において、兄弟間の扶養を確保するのに適している。インドの高級カースト、旧中国の貴族・地主階級、バルカン僻地のザドルガと呼ばれる家族などがこの形態である。 人類の家族類型は、一般的に、複合家族制→直系家族制→夫婦家族制へと移行してきた。さらに、この変化は不可逆的であるともいえる。

 家族機能説でWF・オグバーンは家族機能を性的機能・扶養機能である「主機能」と経済・地位付与・教育・保護・娯楽・愛情・宗教という「副機能」と分類し、「主機能」はどのような社会でも存在するが副機能は産業化によって専門機関に委譲され弱体化する」と説いた。

 ほぼ同時期に、F・バージェスは家族が近代化によって、外部的・伝統的機能を失って、子供を養育し愛情を授受し、パーソナリティーの発達を支える機能に専門化してきているという家族機能専門化説を唱えた。 その後、T.パーソンズは現代の家族は、大きくみると機能喪失化しつつあるが家族には衰退しない根本機能があるとし、それは「子供を真に社会の構成員にする第1次的社会化と成人夫婦のパーソナリティーの安定化である」という家族根本機能説を示した。

 マードックは、「1組の夫婦とそこから生まれた子供」からなる核家族、この、父一母一子の三極構造は、家族の基本的機能である生殖・性・経済・教育の4つの機能を遂行するために、これ以上縮小することのできない家族の基本的構造であるといった。 この、マードック説によって1950~60年代を通じて核家族論をめぐる機能と構造の両面に対して理諭的・現実的レベルでの批判を噴出させて活発な諭議を呼び起こした。なかでも産業社会に適合した家族形態として、パーソンズが指摘した「構造的に孤立した核家族」説に対し核家族が互いにネットワークとして緩やかに結びついている修正拡大家族こそが近代産業における適合形態であるとする反論は、ネットワーク論への着目ともあいまって都市家族の研究視点に一石を投じる結果となった。 家族には様々な価値が付与されてきた。ヘーゲルの「人倫の基礎」やフロイトの「人格と倫理の根拠」、さらに「愛の共同体」としての家族である。

 パーソンズとベールズは、核家族の構造に役割という視点からアプローチし、男性は生計を維持するために就労するという「手段的役割」、女性は家庭にあって家族員の統合と精神の安定を図る「表出的役割」に分類した。しかし、これらの価値観は創出概念である家族を実体化させ、疑問視しえなくする働きをもっている。「生物学的父(genitor)」と「社会学的父(pator)」の両者の同一性は必然ではなく、これを同一であると要求する「核家族」概念は、人類学的に特殊なケースである。

 バージェスの「制度家族から友愛家族へ」という定式には進化論な発想が基礎となっている。これは「制度家族」の様々な価値は産業化により「外化=社会化」され、最終的に「友愛家族」に発展するという思想である。 いずれにしても、社会の農業化・工場化・情報化・国際化・高齢化に伴い多様な社会的変化が生じ、新しい社会問題が発生してきている。今後も、この多様な個人の欲求充足に焦点を合わせた場合、4種(生命維持機能・生活維持機能・パーソナリティ機能・ケア機能)の充実が求められていくと思われる。

 しかし、この家族機能だけでは対応できない部分に関して公的サービス等があるが、現状では不十分である。現状でそれを補っているのは、親族ネットワークであり、近隣ネットワークである。修正大家族や地域が、本来的な家族機能をサポートしていく場面は今後ますます増えていくと思われる。

 

(参考文献 福祉士養成講座編集委員会『社会福祉士養成講座11 社会学』中央法規 2003. 中島恒雄『社会福祉要説』ミネルヴァ書房 2001. 菅原眞理子『新・家族の時代』中公新書 1987)

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