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 「性差別と性の役割について、あなたなりに論じなさい。」

 

 生物学的には、人類には男性と女性の2種類しか存在しない。人類が存続してゆくためには、男女間で精子と卵子の結合が行われ、男性と女性というひとりずつの両親の遺伝子を受け継いだ新たな生命を生み出さなければならないから。

 男性と女性の決定的な違いは、男性のみが精子を製造し、女性のみが卵子を製造できる点にある。ゆえに人間社会においては、妊娠・出産をともなわない男同士、女同士の性行為は、社会的な行為からの逸脱、あるいは隠された高尚な快楽追及の異常行動とみなされてきた。

 しかし近年、「性自認(性アイディンティティ)」という概念が一般化し、性的指向性の多様化を認めていくことが、性に対する偏見をなくし、男女間の不平等をなくし、「自分らしく生きる」ことができる社会なのだという考えになりつつある。

 いわゆるニューハーフとよばれる、本来ならば男性だった者が「性同一性障害」と認定され、あるいは本人の「女性らしく生きたい」という希望で、女装して生きることも社会的に許されるようになった。また医学の進歩で女性ホルモンを打ち、男性器を女性器状に改造し、戸籍上は男性であるが、外見はまったくの美しい女性であるという者も珍しくなくなった。本人がそれが本当の「自分らしさ」だと感じるならば、身体を改造してでも、「自分らしさ」を追及するために何をやっても社会的に許されるという考え方である。これは同様に、生物的には女性であるが男として生きたいという女性の場合にも当てはまる。そして自分の性を自分自身で決めるということから、自分が性の対象とするものが同性であるか異性であるかということにも繋がり、社会生活の最小単位である夫婦、家族の問題にも発展していく。

 夫婦生活というものは本来、生物学上で「男性」と「女性」の結合の場合しかありえなかった。一夫多妻でも一妻多夫でも「男女」が結合しない限り新たな生命を生み出せないからである。しかし、社会環境が変化するにつれ、戸籍上の性別に関係なく夫婦生活が送れるようになった。アメリカのある州では、同姓同士の結婚も認められている。現在医学では不妊治療が進歩し、人工授精も一般化している。体細胞から取り出した核を卵子に注入し受胎させることも可能になりつつあるので、近い将来、精子なしで女性同士の夫婦でも双方の遺伝子を持つ子供を誕生させることができるかもしれない。また男同士の夫婦でも提供された卵子に人工授精し腹腔内の人工子宮で、へその緒と結びつけた栄養によって胎製させ、帝王切開で誕生させることも可能になるだろう。男性による授乳もホルモン注射などによる女性化乳房で可能になり、男性も女性も自分のセクシュアリティに忠実に生きることができる。

 性自認、及びセクシュアリティとしての性別は、心理的現象であり、後天的に獲得されるものであるという社会的認識から、セクシュアリティとは、自分自身で決めるものという考えが一般化してくる。生まれてくる以前に男性か女性か判別できることから、上記のような考え方では、生まれる以前から性別を決められるのは本人の意思に反するという訴えも正当であり、「生まれてくる子供は、両性具有にしてください」と言い出す両親も出現してくるだろう。遺伝子的見地からいえば両性具有で誕生させることは不可能ではない。出生前の男子の胎児のミューラー管抑制ホルモンの分泌を制御し、子宮と卵管を形成させ、男女両性の性染色体を兼ね備えた両性具有人(ヘルマフロディトス)として出生させるのである。

 ここで、道徳的関知の転換が起きる。 プラトンの「饗宴」には、人類の中にはかつて男性、女性のほかに男女両性を有する両性具有人(ヘルマフロディトス)が存在していたと書かれている。両性具有人は非常に優れた能力を持ち、天上を征服しようと企てたため神々がこれを怖れ、半々に引き裂いてしまい男性と女性の部分に分けたと書かれている。これ以後、両性具有人はお互いの分かれた半身を探すのに一生懸命になるあまり、恋愛などというものに夢中になったため、神々は安心出来たとのことである。なお、元々男性や女性だった種族はお互い異性に無関心であり、プラトンによるとホモとかレスビアンはこれらの種族に属しているとのことである。両性具有に関する記述はインドのマハーバーラタやギリシャ神話のテレシアス伝説を含む世界中の神話に存在している。インドにはヒジュラという集団が存在し祭祀等を司っているが、彼らは本来、両性具有の民であったと言われているし、北米のインディアンにおいてもベルダーシュという存在がおり、これらはインディアンの間において男女を越えた第3の性として位置づけられている。

 人工的に両性具有人を作り出さなくとも、自然発生的に、男女の性別の判定困難な「半陰陽者」は、500~1000人に1人の割合で誕生している。彼らは性染色体がXXYという組み合わせで、クラインフェルター症候群(XXY 症候群)と呼ばれている。 社会的に認知されている限り、彼ら(XXY性染色体を持つ人間)は増え続ける。それは白人種と有色人種の子は必ず有色人種になるのと同じである。国際結婚が進んでいけば、必ず人種は混ざり合ってひとつになる。それを人間が望むからである。人類は少しずつ変化している。男性の精子数は20年前から半減しているという。彼ら(XXY性染色体を持つ人間)の人権を認める限り、彼らが子孫を残したければそれを医療的に保護しなければならない。そして彼らは増え続け、統計学的に必ず、何万年後かには、人類はすべて両性具有人(ヘルマフロディトス)となる。 「両性類」としての人類の進化である。

 

参考文献[1]プラトン,饗宴,岩波文庫(2000年)[2]西川一三,秘境西域八年の潜行,中公文庫(2001年)

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